「住宅ローンを完済した後は何もしなくていいよね?」と思っている方は意外と多いものです。
実は住宅ローンを全額返済した後には、やっておくべき手続きがあります。手続きしておかないとデメリットが発生したり、費用が発生したりするため、完済後にやるべきことを把握しておかなければなりません。
また、住宅ローンを完済しても引き続き払い続けなければならない費用もあり、今まで返済していたお金をどうするのか考えておくことも必要です。
本記事では住宅ローンを完済後にすべき手続き、手続きにかかる費用について解説します。
住宅ローン完済後にすべき2つの手続き
住宅ローン完済後、長かった返済から解放され「もう何もしなくていいんだ」と思ってしまいがちです。
しかし、完済は終わりではなく、以下のような手続きをしなければなりません。
- 不動産の抵当権抹消登記
- 火災保険の質権抹消
内容を理解しておけば、スムーズに手続きを進められます。
不動産の抵当権抹消登記
住宅ローンを完済したら、不動産の抵当権を抹消します。
住宅ローンを借りる際には、融資を利用して買った不動産を担保にして抵当権を設定しなければなりません。
抵当権とは、担保にした物件から優先的に弁済を受けるために設定する権利です。融資残高がある不動産が売却されると、優先して抵当権を設定した銀行に返済されます。
なお、借りたお金を全額返済しても、登記された抵当権は自動的に消えません。登記上はお金を借り続けていることになるため、法務局に抵当権抹消登記を申請して抵当権を消します。
火災保険の質権抹消
住宅ローン完済後は、火災保険に設定された質権も抹消しなければなりません。
質権とは、担保にした債権から優先的に弁済を受けるために設定する権利です。質権の設定された火災保険が適用されると、保険会社から支払われる保険金が優先して銀行に渡されます。
住宅ローンを完済しても、抵当権と同じく質権も自動的に抹消されません。住宅ローン完済後に銀行から保険証券と質権消滅承認請求書が郵送されてくるため、これらの書類を保険会社に提出して自身で質権抹消をおこないましょう。
住宅ローン完済後の手続きにかかる費用
住宅ローン完済後には、抵当権抹消登記の申請と火災保険の質権抹消をおこないます。
手続きのうち、抵当権抹消登記を法務局に申請する際には費用がかかります。
いくらかかるのか理解し、住宅ローン完済後のためにお金を準備しておきましょう。
抵当権抹消登記のときに登録免許税が課税される
抵当権抹消登記を申請する際には、登録免許税が課税されます。
登録免許税とは、不動産に関連する登記をおこなう際に課税される税金です。
抵当権抹消登記に対する登録免許税は、抵当権を抹消する件数ごとに1,000円課税されます。たとえば、建物と土地にそれぞれ1件ずつ抵当権が設定されている場合、抵当権を2件抹消しなければなりません。抵当権を2件抹消する際には、登録免許税が2,000円課税されます。
なお、登録免許税は抵当権抹消登記申請時に収入印紙を貼った書面を提出し納税しなければなりません。登録免許税が2,000円課税されるのであれば、2,000円分の収入印紙を貼った書面を法務局に提出します。
登記申請を代行してもらうと司法書士費用がかかる
抵当権抹消登記を司法書士に代行させた場合、登録免許税に加えて司法書士費用を支払わなければなりません。
抵当権抹消登記に関する費用は、依頼する司法書士によって異なります。一般的に司法書士費用は、1〜2万円くらいかかるといわれています。
費用は司法書士によって異なるため、代行を依頼する際には複数の司法書士から見積もりを取得しましょう。
抵当権抹消登記の申請を自身でおこなうときの手順
一般的に抵当権抹消登記の申請は司法書士に代行してもらいますが、手続きの内容はそこまで複雑ではありません。
手順を理解していれば、一般の方でも抵当権抹消登記の申請も可能です。
自身で手続きする際は、以下の手順で進めます。
- 申請に必要な書類を準備する
- 申請書に必要事項を記載して法務局に提出する
- 抵当権抹消登記が完了する
抵当権抹消登記を進める際には、まず以下の書類を準備します。
書類名 | 入手先 | 備考 |
申請書 | 法務局 | 法務局のホームページでダウンロード可能 |
住民票や戸籍 | 住まいを管轄する自治体 | 登記簿に記載された借入者の住所や氏名が現在と異なる場合に必要 |
登記識別情報 | 借入先の銀行 | 抵当権設定時に銀行が法務局から受け取った書類
住宅ローン完済時に銀行から届く |
抵当権解除証書 | 借入先の銀行 | 住宅ローン完済時に銀行から届く |
委任状 | 借入先の銀行 | 住宅ローン完済時に銀行から届く |
資格証明 | 借入先の銀行 | 住宅ローン完済時に銀行から届く |
申請書は法務局の「不動産登記の申請書様式について」からダウンロードできます。記入例も掲載されており、見本を参考にしながら記入可能です。
書類を準備できたら、必要書類を法務局に提出します。
提出する際には、法務局で販売されている収入印紙を使用して登録免許税を納税します。申請書を提出する前には、収入印紙の販売所に立ち寄って購入しておきましょう。
法務局に書類を提出して納税も終わったら、1〜10日くらいで抵当権抹消登記が完了します。
抵当権を抹消しなかったときのデメリット
抵当権抹消登記は義務ではなく、住宅ローン完済後もそのまま抵当権の登記は残せます。
しかし、抵当権を抹消しなかったときには、以下のようなデメリットが発生します。
- すぐに不動産を売却できなくなる
- 抵当権を消さないと不動産を担保にしにくくなる
- 相続が発生するとより抵当権抹消登記に時間がかかる
抵当権を残すメリットはないため、住宅ローン完済後には抹消するよう心がけましょう。
すぐに不動産を売却できなくなる
住宅ローンを完済していたとしても、抵当権が設定されたままだと不動産は売却できません。
抵当権が設定されていても住宅ローンを完済しているのであれば、金融機関が担保にした不動産を競売にすることはありません。しかし、買い手からしてみると、本当に住宅ローンを全額返済したのか確認できず、抵当権が残っている不動産に対して「売買代金を払うのは不安」と感じてしまいます。
買い手に不安を与えると売却しにくくなるため、完済後すぐに抵当権抹消登記を申請しておきましょう。
抵当権を消さないと不動産を担保にしにくくなる
抵当権を消しておかないと、新たに借り入れするときに不動産を担保にしにくくなります。
担保にした不動産を売却した場合、抵当権の順位が高い債権者から代金を受け取れる仕組みになっています。すでに抵当権が設定されている不動産に対して融資すると、返済が滞ったときに弁済されるお金が減るおそれもあり、金融機関は貸し出しを渋ってしまうかもしれません。
抵当権が登記されていない不動産のほうが融資に通りやすいため、完済後は抹消登記の申請をおこないましょう。
相続が発生するとより抵当権抹消登記に時間がかかる
抵当権を抹消する前に相続が発生すると、抵当権抹消登記に時間がかかります。
抵当権が設定された不動産を相続する際には、完済後だとしても、一般的に相続登記を終わらせてから抵当権抹消登記を申請します。しかし、相続登記には時間がかかり、すぐに抹消できません。
相続登記するには、相続人全員で遺産分割協議をおこなって遺産を分配します。協議する際には遺産額や相続人の確定をおこない、話し合いで相続を進めていきます。遺産分割協議から相続登記までには数ヶ月かかるケースもあり、すぐに抵当権抹消登記できないと考えておきましょう。
住宅ローン完済後も発生する費用
住宅ローンを全額返済した後も、以下の費用が発生します。
- 固定資産税
- 建物の修繕費用
- 火災保険料
完済後も発生する費用を理解し、支払いできるよう貯蓄しておきましょう。
不動産を所有している限り固定資産税が課税される
固定資産税は住宅ローンを完済後でも、不動産を所有している間は課税され続けます。
固定資産税は、1月1日現在で不動産といった固定資産を所有している人に対し課税される税金です。所有している不動産の価値が高いほど、固定資産税の課税額が高くなります。
建物は築年数により価値が下がるものの、固定資産税の計算式の関係上、ゼロにはなりません。
終の棲家として住宅を所有しているのであれば、老後も固定資産税が課税されると考えておきましょう。
建物が古くなったら修繕費用がかかる
所有している建物が古くなった場合、修繕費用がかかります。
一般的な木造住宅である場合、新築から30年経過までに400〜800万円の修繕費用がかかるといわれています。
とくに外壁や屋根の全面補修には、まとまったお金が必要です。外壁も屋根も15年程度で前面補修が必要であり、どちらも100万円くらいかかります。工事費用は高額になりがちであり、あらかじめ貯蓄しておかなければ払えなくなるかもしれません。放置していると雨漏りといった二次被害が生じてしまい、余計に修繕費用が高くなるため注意しましょう。
火災保険に加入していると保険料がかかる
火災保険に加入していると、加入期間は保険料を払わなければなりません。
地震保険に加入するかどうかで、火災保険料は変動します。
火災保険料の目安は、以下のとおりです。
地震保険の有無 | 契約年数 | 一括払い保険料の目安 |
加入なし | 5年総額 | 10~17万円 |
加入あり | 5年総額 | 32~40万円 |
なお、火災保険料は不動産の種別や立地、保証内容によって大幅に変動します。目安はあくまで参考程度と考え、詳細は保険会社に確認しましょう。
住宅ローン完済後に考えるべき資金の使い道
住宅ローン完済後は、今まで払っていた返済額が浮いて生活にゆとりが出ます。
しかし、ゆとりが出たといっても、無駄遣いすると後悔するかもしれません。
定年が近いなら老後資金が必要でしょうし、建物のメンテナンス時期が近いなら貯蓄したほうがよいでしょう。また、完済時の年齢がまだ若く、資金的な余裕があるなら投資に回すのも方法のひとつです。
人によって適切な資金計画は異なるため、自分自身のライフプランと照らし合わせながら資金の使い道を決めましょう。ファイナンシャルプランナーのような専門家に相談し、完済後の資金の使い道を考えるのも効果的です。
住宅ローン完済後の手続きに関してよくある質問
住宅ローン完済後の手続きに関してよくある質問は、以下のとおりです。
- 住宅ローン完済したときの書類はいつ届きますか?
- 住宅ローン完済後も住宅ローン控除は使えますか?
- 完済後にまた住宅ローンは借りられますか?
それでは、よくある質問の内容と、その回答を紹介していきます。
住宅ローン完済したときの書類はいつ届きますか?
住宅ローンを完済したときの書類は、完済から1ヶ月から2ヶ月くらいで銀行から送られてきます。
銀行から届く書類は、以下のとおりです。
- 登記識別情報
- 抵当権解除証書
- 委任状
- 資格証明
なお、銀行から届く書類のなかには、有効期限が定められているものもあります。有効期限を超えてしまうと、抵当権抹消登記の申請ができなくなります。書類を紛失しても再発行してくれますが、再発行に1ヶ月以上かかるケースもあるため注意しましょう。
住宅ローン完済後も住宅ローン控除は使えますか?
住宅ローン完済後は、住宅ローン控除は使えなくなります。
住宅ローン控除を受けるには、以下のような条件を満たさなければなりません。
- 住宅ローンの残額が残っている
- 返済期間が10年以上ある
完済してしまうと、住宅ローン控除の条件を満たせなくなります。住宅ローン控除を長く利用したい場合は、繰り上げ返済や一括返済をしないようにしましょう。
なお、住宅ローン控除を受けるための要件は記載した事項以外にも多く存在します。住宅ローン控除を受けられるかどうか心配な方は、不動産会社や銀行に確認しましょう。
完済後にまた住宅ローンは借りられますか?
完済すれば、また住宅ローンを借りられます。
住宅ローンを使って自宅を購入したものの、ライフスタイルの変化によって住み替えを検討する人もいるはずです。住み替えの際に完済していれば、新居購入のときに住宅ローンを再度借りられます。
なお、住み替えローンを利用すれば、住宅ローンの残額があっても借り入れできるケースがあります。
住宅ローン返済中の住み替えローンについては「住宅ローン返済中でも住み替えできる?住み替えローンの基礎知識と契約の進め方」で詳しく解説しています。
まとめ
住宅ローン完済すると今までの負担が一気に軽くなり、解放感が強くなって返済後の手続きを忘れてしまいがちです。
しかし、抵当権を残しておくとデメリットがあるため、完済後すぐに抵当権抹消登記を申請しましょう。一般的に抵当権抹消登記は司法書士に代行を依頼しますが、手続きは簡単で一般の方でも申請できます。
また、住宅ローン完済後は、お金の使い道を考えましょう。無計画のままだと、今まで返済していた金額分、無駄に浪費してしまうかもしれません。老後の資金や建物のメンテナンス費用などに使えるよう、きちんと資金計画を立てておくことが大切です。